不耕起栽培×間作の組合せで収益性?気候変動緩和に貢献
大学圃場における不耕起/耕うん、ミニトマト+落花生の間作/単作の比較評価で解明
茨城大学学術研究院応用生物学野の小松﨑将一教授(グリーンバイオテクノロジー研究センター長)の研究グループは、太陽光発電で動くロボット草刈り機を導入し、不耕起栽培と落花生との「間作(かんさく)」を組み合わせたミニトマトの有機栽培を行い、従来の耕うん方法や単作(ミニトマトのみを栽培する方法)と比べた環境への影響や収益性の違いを検証しました。これらの結果から、不耕起?間作は収量、エネルギー効率、収益性を向上させつつ炭素フットプリントを削減でき、有機農業における持続可能な管理手法であることが示されました。
研究内容は、2025年3月25日に発行されたオランダのエネルギー専門誌『Energy』(2025年6月号)に掲載されました。
背景
有機農業は環境保全型農業として期待されていますが、除草剤の使用が制限されるため、雑草抑制の手段として頻繁な耕うんが行われることがあります。このような過度の耕うんは土壌の劣化や生態系への影響を引き起こすこともあり、有機農業が必ずしも環境保全に直結しない場合があります。
そこで研究グループでは、不耕起と間作を組み合わせた方法のエネルギー効率や炭素フットプリントの評価を行い、さらに太陽光発電を利用した農業機械の導入を組み込んだ実証実験を行うことで、環境へのさらなる利点や有機農業の実現可能性を検証しました。
研究概要
本研究では、有機栽培のミニトマト生産において、不耕起栽培と間作に太陽光発電農機を組み合わせた効果を評価しました。圃場での分割プロット試験により、2つの耕うん方法[不耕起/ロータリー耕]と2つの作型[ミニトマトと落花生の間作/ミニトマトのみの単作]をそれぞれ組み合わせ、「不耕起?間作」「不耕起?単作」「ロータリー耕?間作」「ロータリー耕?単作」の4パターンを比較しました。不耕起区では環境効果を高めるため、従来の草刈り機の代わりに太陽光発電ロボット草刈り機を使用しました。持続可能性は、作物の収量、エネルギー効率、炭素フットプリント、経済的収益性に基づいて評価しました。
その結果、不耕起栽培は化石燃料の使用と労働力を削減することから、ロータリー耕うんと比較してエネルギー投入量が63.1%減少しました。不耕起?間作の組み合わせは、不耕起?単作よりも13.8%高いミニトマトの収量を達成しました。種子や労働力の投入量は多かったものの、収量の増加により、エネルギー効率と収益性が向上しました。また炭素隔離効果も高く、土壌有機炭素を1.5%増加させ、炭素排出量を一部相殺することで、最も低い炭素フットプリント(816.9 kg CO? eq ha??)を実現しました。これらの結果から、不耕起?間作は収量、エネルギー効率、収益性を向上させつつ炭素フットプリントを削減でき、有機農業における持続可能な管理手法であることが示されました。
研究手法
本研究は、茨城大学農学部附属国際フィールド農学センターの実験農場において、2021年11月から2023年11月までの2年間にわたり実施されました。当地は2012年から不耕起栽培を基盤とする有機農業の長期実験に利用されており、土壌環境や作物生産性の変化に関する継続的なデータが蓄積されています。
本研究では、2区分割プロット法(split-plot design)を採用し、4復で実施しました。主要因として耕うん方法(不耕起/ロータリー耕)、副要因として作型(ミニトマトと落花生の間作/ミニトマトの単作)を設定しました。主区の面積は50㎡(5 m × 10 m)、副区は25㎡(5 m × 5 m)としました。使用した作物品種は、地元農家で広く利用されるミニトマト(品種:ロッソナポリタン)と落花生「ジャワ13号」です。ミニトマトは4月に播種?育苗、5月に定植。落花生はトマト植え付け時に直播しました。
不耕起区では、太陽光発電で稼働するロボット草刈り機を毎日稼働させ、自動除草を行いました。
ロータリー耕区では、植え付け時にトラクタを動力としてロータリー作業機により全面を15cm深さで耕うんしたあと、農業慣例に基づいてガソリン式草刈り機による除草を月に1回行いました(図1)。
全区において、有機肥料(N: 3.7%、P?O?: 2.3%、K?O: 1.6%)を5月に1000 kg/ha施用しました。さらに、近隣の湿地から回収したヨシを8000 kg/haの割合でマルチ資材として敷設しました。化学肥料、農薬、除草剤は一切使用せず、灌水も自然降雨のみに依存しました。収穫後は、作物残渣を除去しました。
図1 各農業体系に栽培方法の差異。
NT: 不耕起; RT: ロータリー耕; M: ミニトマト単作; TP: ミニトマトと落花生の間作。
本研究では、農作業や資材の投入に伴うエネルギー投入量(Energy Input: EI)と、作物の収穫量に基づくエネルギー収得量(Energy Output: EO)を定量化し、持続可能性を評価しました。評価指標として、エネルギー生産性(EP:作物収量 ÷ エネルギー投入量(kg/MJ))とエネルギー利用効率(EUE:エネルギー出力 ÷ エネルギー投入量(MJ/MJ))を用いました。各種農業資材(労働力、燃料、機械、肥料、種子など)の使用量にエネルギー換算係数を掛け合わせてEIを算出しました。
また、土壌からの温室効果ガス(GHG)排出および資材投入による間接的排出を合算し、CO?換算で炭素フットプリントを算出しました。面積ベースの炭素フットプリント(CFa)は、TCEEからSOC貯留量の変化を差し引いた値とし、収量ベースの炭素フットプリント(CFy)は、CFaを総収量で割った値として計算しました。 SOC(0-30 cm層)は2020年および2023年に採取?分析し、炭素隔離量を評価しました。これらの評価を通じて、収量と環境コストのバランスを明確にし、持続可能な農業の実現に向けたトレードオフを検討しました。
さらに、各処理の資材投入コストと作物販売価格から収益を算出し、経済性を評価しました。具体的な指標として、純利益(NEP)は「収入からコストを差し引いた額」、収益性比率(RIC)は「収入をコストで割り、100%を掛けた値」と定義しています。さらに、収量、エネルギー効率、収益性、炭素フットプリント(環境負荷)、コストといった主要な評価項目を1から5のスコアに正規化し、環境、経済、生産のバランスを考慮した総合的な持続可能性評価を行いました。
研究成果
本研究では、耕うん方法(不耕起栽培とロータリー耕)と作型(単作と間作)の組み合わせが、ミニトマトと落花生の収量、エネルギー効率、炭素フットプリント、経済性に及ぼす影響を評価しました。
その結果、以下の知見が得られました。
作物収量:耕うん方法と作型の両方が収量に有意な影響を及ぼしましたが、両者の相互作用は有意ではありませんでした。不耕起栽培では、ロータリー耕と比較して、単作で54.3%、間作で27.9%の総収量増加が見られました。この増加は主にミニトマトの収量向上によるもので、落花生の収量は35.4%減少しました。同一の耕うん方法内で比較すると、間作は単作に比べてミニトマトの収量を向上させ、不耕起栽培で13.8%、ロータリー耕で31.0%の増加が認められました。
エネルギー収支:ロボット草刈り機を活用した不耕起栽培は、農業慣行のロータリ耕うん栽培と比較して、総エネルギー投入量を63.1%削減し、高い省エネルギー効果を示しました(図2)。とくに農業慣行のロータリー耕区では、トラクターやガソリン式草刈り機の使用により、エネルギー投入の約52?53%が化石燃料由来でした。一方、ロボット草刈り機を活用した不耕起栽培では化石燃料を使用せず、太陽光発電によるロボット草刈り機と人力作業により、人力由来のエネルギーが約82?83%を占めました。間作は落花生の播種や管理に伴う人力、種子投入が増加し、単作と比較してエネルギー投入量が3.9%増加しました。エネルギー収得量は作型に大きく左右され、間作区では落花生の追加収量により、単作区よりも明確に高くなりました。不耕起栽培では、間作のエネルギー出力が単作の約1.8倍(+64.4%)、ロータリー耕でも間作が単作より+81.2%増加しました。収量あたりのエネルギー投入量も、不耕起栽培がロータリー耕に比べて72.3%削減され、エネルギー生産性とエネルギー利用効率も不耕起栽培と間作で向上しました。
炭素フットプリント:総炭素排出量(TCEE)は、耕うん方法、作型、およびその相互作用によって有意に影響を受けました。不耕起?単作区と不耕起?間作区は、それぞれロータリー耕?単作区とロータリー耕?間作区に比べてTCEEが33.3%および32.5%低減しました。一方、間作は単作に比べてTCEEを増加させ、不耕起で3.8%、ロータリー耕で2.5%の増加が見られました。土壌有機炭素(SOC)ストックは、不耕起栽培で増加し、ロータリー耕で減少しました(図3)。面積あたりの炭素フットプリント(CFa)と収量あたりの炭素フットプリント(CFy)も、不耕起栽培と間作で低減し、環境負荷の軽減が示されました。
経済性:経済コストは、耕うん方法、作型、およびその相互作用によって有意に影響を受けました。ロータリー耕?単作区とロータリー耕?間作区のコストは、不耕起?単作区と不耕起?間作区に比べて、それぞれ31.7%および29.6%高くなりました。同一の耕うん方法内で比較すると、間作は単作に比べてコストが増加し、不耕起で6.7%、ロータリー耕で5.2%の増加が見られました。これは主に人力と種子の追加投入によるものです。収入、純利益(NEP)、収益性比率(RIC)も耕うん方法と作型によって有意に変動し、不耕起栽培と間作で高い収益性が示されました。
総合持続可能性評価:収量、エネルギー効率、収益性、炭素フットプリント、コストといった主要評価項目を1?5のスコアに正規化し、総合的な持続可能性評価を行いました。 その結果、不耕起?間作区が最も高い平均スコア(3.88)を示し、生産性、効率性、環境負荷、経済性のバランスが優れていることが明らかになりました(図4)。
図2 供試した農業体系別のエネルギー投入量の構成割合:不耕起栽培(NT)、ロータリー耕(RT)、ミニトマト単作(M)、ミニトマト?ピーナッツ間作(TP)
図3 2020年から2023年における各処理区の表層土壌(0?30 cm)における土壌有機炭素(SOC)貯蔵量の変化。NT:不耕起、RT:ロータリー耕、M:ミニトマト単作、TP:ミニトマトと落花生の間作。
図4 異なる作付システムにおける総収量、エネルギー投入量(EI)、エネルギー使用効率(EUE)、収量あたりのカーボンフットプリント(CFy)、コスト、および純経済利益(NEP)の各指標を、1から5のスコアで示したレーダーチャートである。各作付システムの持続可能性を総合的に評価するための比較を視覚化している。なお、NTは不耕起、RTはロータリー耕、Mはミニトマト単作、TPはミニトマトと落花生の間作を示す。
まとめと今後の展開
有機ミニトマト栽培において、不耕起?間作を採用することで、収量、エネルギー効率、経済的利益の向上と炭素フットプリントの低減が期待できます。不耕起栽培は土壌を耕さないため、土壌構造の維持や微生物活動の促進に寄与し、ミニトマトの収量増加と経済的利益の向上につながります。また、太陽光発電によるロボット草刈り機の使用により、燃料と労働力の投入が削減され、エネルギー投入量と経済的コストの両方が効果的に減少します。さらに、間作を組み合わせることで、総収量が増加し、エネルギー利用効率と経済的利益が向上しますが、種子や労働力の追加投入が必要となります。加えて、不耕起?間作の組み合わせは土壌有機炭素(SOC)の貯留量を増加させ、炭素隔離の強化が示唆されています。燃料と労働力の消費削減、および炭素隔離の向上により、炭素フットプリントが低減され、収量あたりの炭素フットプリントも低くなり、高い持続可能性が示されています。これらの農法は、エネルギー効率、経済的利益、環境面での利点を兼ね備え、有機ミニトマト生産における持続可能な発展を促進する有望な作付体系といえます。今後、間作における作付比率の最適化が収量最大化の鍵となります。さらなる研究として、不耕起栽培下での他の間作パターン、さまざまな作物種や植栽密度を検討し、再生型有機農業におけるより持続可能な作付体系の構築を目指すことが重要です。
論文情報
- タイトル: No-tillage intercropping with a robotic mower: Advancing a high productivity, low-carbon and energy-efficient organic farming system
- 著者:黄啓良, 染谷海, Ratih Kemala Dewi,小松﨑将一
- 雑誌:Energy (Elsevier)
- 公開日:2025/3/25
- DOI: 10.1016/j.energy.2025.135851